HEARTS/Double Bside

HEARTS
Double

Singalong

2016,08,20
Beck
「Loser」

Rik Burnettさん(@riktomas)が投稿した写真 - 2016 6月 2 8:44午後 PDT

1990年代から第一線で活躍を続け、2度に渡ってグラミー賞を受賞した名実ともにアメリカの音楽シーンを代表するアーティスト、ベック。
ベックの音楽的ルーツは、ブルース、カントリー、ヒップホップ、ロックetc…様々なジャンルがMIXされているのが特徴です。

そのジャンルが特定しにくい音楽性は、彼の育ってきた環境が大きく影響しています。

演奏家の父、芸術家の母と、アーティスティックな両親に育てられた天才ベック。
と聞くと、恵まれた環境で順風満帆に音楽活動をしているように思いますが、幼い頃に両親が離婚し母子家庭に。まともな収入もなく、じきに生活は困窮していきます。ロサンゼルスの中でも荒れた中学校に通っていた彼は、唯一の白人だったために、クラスでも孤立。そんな日々に嫌気がさし、経済的な理由も相まって中学校を中退・・・

と、10代ですでに波乱万丈です。

中学すら出ていない彼にまともな仕事があるはずもなく、日雇いの仕事を転々とする生活。そんな中、なけなしの小遣いで偶然手に入れたブルースシンガーのレコードに感銘を受け、ブルースにはまり、当時ニューヨークのホームレスの間で流行っていた初期のヒップホップに触れ、刺激を受けます。

そうして、出来上がったのが今回紹介する名曲「Loser」なのです。

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「Loser」は、ブルース、ヒップホップをミックスし、様々な環境音やミュージシャンの楽曲の一部をサンプリングして製作され、まさしくベックがそれまで過ごしてきた環境を一身に表現した曲なのです。

In the time of chimpanzees I was a monkey
(チンパンジーの全盛期、俺はただの猿だった)

Butane in my veins and I’m out to cut the junkie
(血管にはブタンが流れ 固まりごと噛み砕く口)

With the plastic eyeballs, spray-paint the vegetables
(プラスティック製の目玉して 野菜にスプレー塗りたくる)

Dog food stalls with the beefcake pantyhose
(脳みそはドッグフード状態 パンスト履いた脚は筋肉質)

韻をふむ為に使われた英語を日本語に訳してあるのでなおさらですが、歌詞の内容はまったく意味がわかりません・・・

 

Soy un Perdedor
(俺は負け犬)※スペイン語

I’m a loser baby, so why don’t you kill me?
(俺は負け犬、殺っちまったらどうだ?)

サビの歌詞も自分のラップの下手さに嫌気がさした事を詞にしただけで、ベック自身、あまり深い意味は込めていないと語っています。

しかし。

適当で開き直りすら感じる自虐的なこの歌詞が、オルタナティブムーブメントの勢いも手伝い、若者に絶大なる共感を得て大ヒットします。

そう、ベックを語る上でかかせないのが、このオルタナティブというジャンル。
オルタナティブを直訳すると「代わりとなるもの・型にはまらない」と言う意味があり、ジャンルといっても特定の音楽を示す言葉ではありません。
その発祥は70年代のイギリスまで遡ります。
70年代当時、主流ではなかったポストパンク・二ューウェーブバンドといったジャンルが、パンクが世の中に開けた風穴をさらに広げようとした事から、それらを総称してオルタナティブ・ロックと呼ばれるようになります。
その流れはアメリカにも広がり、大学生が自主運営していたカレッジラジオがアンダーグラウンドな音楽としてそれらの音楽を盛んに取り上げ始めます。
当時はインターネットなんてものはない時代。音楽の情報源はラジオが主なものでした。

全米のカレッジラジオごとのチャートをあわせた「カレッジチャート」は、商業性が主体であるビルボードチャートとは異なるもの。そのため、オルタナティブバンドが上位に名を連ね始め、世界的にも徐々に注目を集め始めます。
しかし81年のMTV開局により、音楽の情報源はラジオからテレビに映ってしまいます。
時代は、ラジオでかかる曲が売れる時代から、MTVでビデオが流れる曲が売れる時代へ移行。この影響により、商業的な成功ばかりを狙ったバンドが増え、大衆受けするルックスや、派手なパフォーマンスをする事が重視され始め、音楽性の薄いバンドでも売れる時代に。
そんな80年代のメインストリームの音楽に嫌気がさし、売れる事だけが目的ではない、自分たちの好きな事…反主流的で前衛的な、新しい事をしようとする精神を持ったバンドが注目を集め始めるのです。
これが、90年代オルタナティブムーブメントの始まりであり、ベックが世の中の注目を集めはじめた時期でした。

”80年代の音楽は大っ嫌いだった。

そこにNirvanaとかが登場して音楽に個性とインスピレーションを呼び戻したんだよ。
おかげで、(91年に書いた)Loserは当時見向きもされなかったのに、(93年にリリースされた時)世に迎え入れられた。
ただ、そこには気の抜けないムードが漂っていたんだよね。
僕が感じたのは、土壌が整ったわけだから今度は笑おうよ、新しい音楽を鳴らそうよ、80年代のゴミが一掃されたスペースで何か新しいことをしよう、ってことなんだ。”

(ベック Buzz Vol.18 January 2000から引用)

と、ベックは語っています。

松井正太さん(@matsui1210)が投稿した写真 - 2016 7月 23 7:11午前 PDT

 

I’m a loser baby, so why don’t you kill me?
(俺は負け犬、殺っちまったらどうだ?)

この歌詞に深い意味は込めていないとも語っていますが、80年代の商業的音楽に嫌気がさしたベックの真意が、この歌詞の中には込められているのかもしれません。

様々な音楽ジャンルが出尽くし「売れるため主義」で内容の薄いミュージシャンが蔓延する中、型にはまらない、何か新しいものを生み出そうとたどり着いた、オルタナティブというジャンル。

その流れは、ファッション、そしてヘアスタイルにも当てはまります。
流行りの髪型もいいけれど、時代の流れにとらわれない、その人のスタイルが生きるヘアスタイルをもっと増やしていきたいと思います。

written by Double 松井正太