Nena
Nena 「 99 Luftballons」
時は、アメリカとソビエトの核兵器開発競争が世界を脅威にさらしていた、そんな時代。
東西冷戦と呼ばれたその時代の西ドイツで、その後世界に名を残すことになる大ヒットを飛ばしたバンドがいました。
「 たった99個の風船のせいでこんなことになっちゃった 」
幼さの残る声でこう歌った、女性ボーカルを擁するバンド 「 Nena 」。現在のヨーロッパでは、反戦を掲げる歌として定着しており、ベルリンの壁崩壊にも一役かっていたのではと噂されている、そんな曲「 99 Luftballons 」(邦題「 ロックバルーンは99 」)を紹介します。
「 Nena 」のボーカルは、西ドイツ、ハーゲン出身のガブリエレ・ズザンネ・ケルナー。3歳のころから、スペイン語で小さな女の子を意味する「 ニーニャ 」から由来する「 ネーナ 」というニックネームで呼ばれていました。
17歳で学校を中退していた彼女は、1977年に地元のディスコでボーカルとしてバンドに誘われ、これが彼女の音楽活動の始まりとなります。
のちに、このバンドは解散。1981年、21歳にして当時の伴侶と共に西ベルリンに移り住み、そこで知り合ったメンバーと彼女のニックネームのままのロックバンド「 Nena 」を結成。
1982年デビューシングル「 Nur getraumt 」を発表。西ドイツの人気番組に出演すると翌日にはティーンエイジャーがレコード店に殺到。西ドイツであっという間にチャート1位に。翌83年にはセカンドシングル「 99 Luftballons 」をリリース。
ローリング・ストーンズのライヴを見に行ったメンバーが、ステージ上で飛ばされるたくさんの風船の演出にインスパイアされ「 この風船が、このまま東ドイツまで飛ばされていったら、向こう側の人達は爆弾と勘違いしてしまうのでは? 」と、当時の東西ドイツの状況でしか思いつかないような想像から、この曲が生まれたそうです。
本国では1位を獲得するも、やはりそこはまだベルリンの壁があった頃の西ドイツ。世界に向けてのヒット曲ではありませんでした。しかし、アメリカ・カリフォルニアのラジオ局KROQのラジオDJが、偶然耳にしたこの曲をオンエア。その後じわじわと広がり翌84年には300以上のラジオ局でオンエアされ、ドイツ語の曲としては史上初のビルボードトップ10入り。スイス、オーストリア、イギリス、日本などなど世界12カ国で1位を獲得、英語ではない曲で世界的にヒットした数少ない例になりました。
( ちなみに、日本語の曲では1963年に坂本九の「上を向いて歩こう」が英題:「スキヤキソング」というタイトルでビルボード1位を獲得。)
1984年には来日公演を果たしていますが、当時、なにせ持ち歌が少なかったことから、この曲を4回も演奏したという逸話も残しています。
彼らがデビューした80年代初期、アメリカではMTVが放送開始。耳からだけではなく視覚でも聴く音楽が定着していきます。そのせいもあってか、全世界の男の子たちのアイドル的存在に。あの幼い顔立ちと甘ったるい声、でもちょっとクールなルックス。とくに日本人男子には、今で言うツンデレっぽい雰囲気がたまらなかったんでしょう。(笑)
現在のようにインターネットが普及していなかった80年代には、その頃放送が始まったMTVやベストヒットUSAなどのテレビ番組は、憧れの海外アーティストが動いている姿を見ることのできる「唯一の手段」だったので、わたしは夢中になって見ていました。
84年にはピーター・バラカン氏司会による*ポッパーズMTVが放送開始。首都圏のみの放映で、田舎に住んでいた私は、それを見たいが為に早く上京したいとギリギリしていました。しかし87年秋には放送が終了してしまったので、見ることができた期間はほんの少しだけでしたが、ヒットチャートには載っていない良質な楽曲を、いくつも紹介されていた唯一の番組だったので、毎週食い入るように見ていました。
*ポッパーズMTV:HEARTS/Doubleも参加しているHAIR CATALOG.JPの中のKEEP THE FAITHというコンテンツで詳しく紹介されています。そちらをぜひご覧下さい
余談ですが、その頃に、おしゃれに興味のある女子達が夢中になって見ていた雑誌と言えば、マガジンハウス社から出版されていたOliveでした。わたしもその愛読者の一人で、地元にいた頃は東京に強い憧れを持っていたので、発売日には飛んで買いに行くほど。
ブリティッシュロックやパンクといった激しめな音楽を好む一方で、Oliveが提唱するリセエンヌファッションといった可愛いものも大好きといった、なんでもありな高校生でしたね。
最近、大人のOliveと題して、小冊子ではありますが、同じマガジンハウス社のGINZAとコラボする形で出版されていました。当時夢中になって読んでいた人達が大人になり、昔を懐かしみつつも、今のモノとうまくmixして紹介してくれていました。
音楽もそう。この曲も、HONDAのCMに使われたりバラエティ番組、笑う犬の情熱のオープニングで流れていたりとリアルに聞いていなかった世代も知らず知らずのうちに耳にしているはず。わたしの、ひとつ下の世代では、クラブ活動の場でよくかかっていたそうです。前回私が紹介した「 くよくよするなよ 」だったり、今回の「 ロックバルーンは99 」だったり、時代は繰り返します。次はどの辺りが熱い感じになってくるのか、ほんとに楽しみです。
そして、その後の「Nena」がどうなったかというと。
1987年にバンドは解散。ボーカルのネーナはソロ活動をするもなかなかヒットには恵まれず、いつしか忘れ去られた存在になっていきました。ですが、近年のドイツにおける80年代ブームに乗り2002年、キーボードのウヴェ・ファーレンクロークペーターゼンと共に「 99 Luftballons 」のニューヴァージョンを発表。奇跡的にカムバックを果たします。2005年にはシングル「 Leibeist 」を発表し、「 99 Luftballons 」以来22年ぶりの国内チャート1位を獲得。
今年の2月、55歳のネーナは久し振りの新曲を発表しており、当時を彷彿とさせるちょっと舌足らず気味で鼻にかかった甘めでキュートなハスキーボイスを披露しています。
「まだまだいきますよ!」って感じが伝わってきて、嬉しくなっちゃいました。(笑)
これからも一時代を築いた大人達の活躍から目が離せなくなりそうです。