Minnie Riperton
Minnie Riperton 「Lovin' you」
5オクターブ~5オクターブ半の広い声域を持ち、可憐なその歌声は「天使の歌声」と称されつつも、惜しくも31歳の若さで亡くなった天才シンガー、ミニー・リパートン。絶対的な声の透明感、シンプルでストレートな歌詞、そのハーモニーは聴く人の心を優しく包んでくれる、そんな彼女の代表曲「Lovin' you」。
今回は、この曲の裏側に隠れた、彼女の底抜けにポジティブで、自分の想いに素直に生きた人生を踏まえながらご紹介します。
ミニー・リパートン
1947年 アメリカ シカゴ生まれ。
音楽一家に生まれた彼女は、幼い頃から本格的なオペラを学び、14歳で音楽グループ「ジェムス」に参加。その後、若干19歳でソロデビュー。その特徴的な歌声から関係者の間では評価が高かったものの、なかなかヒット曲には恵まれませんでした。その間プロデューサーでもあったリチャード・ルドルフと結婚。二児の母となり、子育てに追われて当時は事実上音楽業界から引退状態。
そんなミニーにチャンスは突然訪れます。
当時、同じ黒人歌手で成功をおさめていたスティービーワンダー。憧れの彼といつしか一緒に歌う事を夢見ていたミニーは、スティービーのライブ会場で、勇気を出して自分がファンである事、そして彼の音楽に対する想いを伝えました。
すると、スティービーもミニーのファンであった事が発覚!なんと、ミニーの独特の歌声には前から注目していたそうです。そこからふたりの親交がスタートし、1971年にスティービーのバックコーラスに抜擢。
1974年にはスティービーのプロデュースによるミニーの2枚目のアルバム「パーフェクト・エンジェル」をリリースすることになります。そして、そのアルバムから後にシングルカットされた「Lovin' you」が全米1位の大ヒットとなったのです。
「Lovin' you」はもともと子守唄としてミニーが娘のマーヤに歌っていた曲。それを寝室で聞いた夫リチャードがアレンジして作られた曲です。夫婦でこんな素敵な曲を作って演奏出来るなんてところが、女子的にもポイント高いですよね。
しかし、そんな矢先の1976年にミニーに乳がんの宣告。同年に片方の乳房の切除手術を行い、それを公表した上で音楽活動を続けます。そこから、彼女は音楽活動と共に早期治療や毎月の胸の検診を広く女性に訴えかけ続けました。しかし、自分の病状は思わしくなく、1979年リチャードの腕の中で息を引き取ったそうです。
「コップに水が半分入ってるとするでしょ。私はそれを“半分しか入ってない”と考えるのではなく、“まだ半分も水が入っている”と解釈するの」
手術後の彼女の言葉です。
言葉通りミニーは最後の最後まで気丈に振る舞い、笑顔を絶やさなかったそうです。
当時、「Lovin' you」を歌う彼女のステージ衣装は白や、花柄のワンピースのドレス。ヘアは、かすみ草などのお花を飾るという少女の心を忘れていないようなスタイル。歌詞もストレートな感じで和訳を見てるだけで恥ずかしくなったりもしますが、彼女の生き様を知った今、すべてが頷けるのです。
この曲のジャネットKのカバーは世界的にも有名ですが、日本人でもMISIA、平井堅などメジャーでヒットしているアーティストが多数この曲をカバーしています。そのため、40年前の曲とは思えないほど、幅広い世代に知られている名曲です。しかし、やはり、ミニー・リパートンの歌うオリジナルの「Lovin' you」は格別なのです。
最後に。
ミニーは黒人歌手でありながらブルースを歌いませんでした。
「私が黒人だから、みんな私がブルースを歌うべきだと言うの。でも私には、ブルーに落ち込む事なんか何もない。ブルースは悲しい気持ちにならなければ歌えないでしょ?私、いつだってハッピーな人間だから。」
いろんな弊害があったであろうこの時代のアメリカで、黒人であること、女性である事を決して卑下する事なくやりたい事をやる姿勢は、なんて素晴らしいハッピーな生き方なんだろうと思いました。