2018,06,13
My Bloody Valentine
「Only Shallow」
My Bloody Valentine / Only Shallow
轟音と浮遊感…夢の中にいるような、どこか違う世界に連れて行ってくれる名曲。
90年代初頭に巻き起こったシューゲイザー・ムーブメントの代表的バンドであるMy Bloody Valentine。そもそもシューゲイザーという音楽ジャンルは、どういったものなのでしょうか。
1980年代後半~1990年代前半に、イギリスで生まれた音楽であるシューゲイザー。音楽の歴史から見ると短い期間でしか起こらなかったムーブメントですが、後の世代に大きな影響を与えました。
シューゲイザーという名前の由来には色々とあるそうですが、一般的には「靴(shoe)を凝視(gaze)する人」という意味があるようです。曲の歌詞を覚えられずステージの床に貼り付けた歌詞カードを見ながら歌っていた光景を、揶揄を込めてシューゲイザーと呼ぶようになったのが始まりなのだとか。
極端に歪ませたギターノイズを、甘く抑揚のないメロディに重ねた浮遊感のあるサウンド、囁くように歌い上げるボーカルが一般的な特徴だと言われていますが、音楽的な定義は非常に曖昧です。
そんなシューゲイザーを代表するMy Bloody Valentine。1984年、アイルランドのダブリンにて結成します。当初はあまり特徴のないガレージバンドでしたが、初代ボーカリストが脱退し、ギタリストのケヴィン・シールズがボーカルも担当するようになります。そして、 デビー・グッギ(Bass)、ビリンダ・ブッチャー(Vocal,Guitar)といったメンバーが相次いで加入する事で音楽性が変わり、轟音ギターノイズと甘美なメロディが融合した、シューゲイザーと呼ばれるスタイルを確立するのです。
そして91年、シューゲイザーの代表的な名盤として今も聴き継がれる「Loveless」を発表。制作は2年半がかりで行われ、その制作費は25万ポンド(当時の日本円で4,500万円!)を費やし、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったクリエイション・レコードの経営が一気に傾いたなんていう噂も…
目が覚めるような轟音と囁くような歌声は、まるでアンビエント・ミュージックのようですらあります。アンビエント・ミュージックの先駆者、ブライアン・イーノもこのアルバムについて
「ポップの新しいスタンダードになるだろう。かつてヒットチャート入りした曲のなかで、これ以上に曖昧で不明瞭なものをぼくは知らない。」
と語っています。やはり本当にいいもの、どれだけ時間が経っても色褪せないものというのは、膨大な時間と熱量が注ぎ込まれているんだと、改めて感じます。
そして音楽と共に注目したいのが、ビリンダ・ブッチャーの存在。轟音で歪んだサウンドの中に、不思議な雰囲気の美しい女性…ちょっとした違和感を感じる絶妙な組み合わせが、唯一無二な存在感を放っていたのではないかと思います。
90年代リバイバルは今もまだ続いている事もあって、当時の彼女のヘアスタイル…薄めの前髪にルーズなアレンジ、大ぶりのピアスなどは、今見ても新鮮です。
流行っておもしろいなぁと思うのが、シューゲイザーをさらに遡ると、60年代に登場したヴェルヴェット・アンダーグラウンドに辿り着くところ。ノイズを多用したサウンドにポップなメロディを溶け込ませた音楽スタイル、女優でありモデルのニコを前面にフィーチャーしたイメージ戦略、強烈なストロボを駆使したステージング…My Bloody Valentineは、彼らからの影響が少なからず見受けられます。
”髪と音楽はつながっている”
音楽の流行が繰り返すように、ヘアスタイルもまた、音楽に合わせて流行が変わります。
これからもいい音楽を聴いて、鮮度の高いヘアスタイルを造っていきたいと思います。
Double SONS 松井正太